2015年06月17日

『「吾輩は猫である」殺人事件』(奥泉光)ネタバレ検討会

『吾輩は猫である』殺人事件 (新潮文庫)『吾輩は猫である』殺人事件 (新潮文庫)
奥泉 光

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 奥泉光『「吾輩は猫である」殺人事件』のネタバレ検討会です。   
 読了前は

   
「犯人は 津木ピン助&福地キシャゴ」

   
とだけ書いて済ませるつもりだったのですが、分からないことが多すぎて、ネタバレブログに書くことになりました。
 以下、ネタバレがあります。
 未読の方は、ネタバレなしで感想を書いた以下の記事に移動お願いします。

    
OLDIES 三丁目のブログ
■[名作文学]灰猫ホームズの推理競争 「吾輩は猫である」殺人事件
  http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20150617/p1

 
【以下、ネタバレあり】

 
 本作品については、色々ともやもやする謎が残っているように思います。
 長谷部史親氏の巻末解説にも、以下の記述があります。
  
「真実の一部を読者の自在な解釈に委ねるリドル・ストーリーの要素も含み、まことに贅沢な興趣に富んでいる」
  
「リドル・ストーリー」という言葉、初めて知りました。
  
  [wikipedia:リドル・ストーリー]
  
謎の感動を呼ぶ!知的な読了感を放つリドルストーリー
  http://matome.naver.jp/odai/2135528196259965501

 伯爵、虎君、将軍と、当たらずとも遠からずの推理により、様々なことが明らかになっていきます。
 最後にホームズがまとめてくれる、と思っていると、慌ただしく色々な事件が発生し、うやむやに終わってしまってよく分からなかった、という感想です。
 単なるミステリーだけでなく、タイムパラドックスSFの要素もあるので、情報が錯綜し、何が分からないのか分からない状況です。
 そこで、以下に、分からない部分を思い付くまま幾つか記そうと思います。
 同好の士の皆様からのコメント、お待ちしております。


 まず、新潮文庫版の裏表紙側のオビに書かれていた謎について。


「吾輩は猫である。名前はまだ無い」
この一行に仕組まれていた謎とは?




この謎、結局はっきりと分かりませんでした。
作中、ホームズが提起したこの問題。


「君は苦沙弥氏の家に本当に住んだ事があるのだろうか」



 単純に読めば、語り手の猫は、水島寒月博士が研究しているタイムマシンの実験で、1905年(明治38年)11月23日の夜、苦沙弥先生が殺害される直前の珍野邸に送り込まれた、と読み取れます。
 時間旅行の副作用で記憶を失った語り手は苦沙弥先生に受け入れられ、膝の上で、苦沙弥先生と一緒に、夏目送籍なる作家が書いた『吾輩は猫である』という小説の原稿を読む。
 実は語り手は苦沙弥先生と1年間暮らしていたのではなく、この時読んだ原稿を自分の経験と勘違いしていたのである。語り手に名前がないのはそのためだった!
……という解釈が成り立つと思います。

  
 しかし一方で、語り手は、苦沙弥先生殺害1年前に珍野邸に送られ、1年間一緒に暮らしていた、という記述もあります。


「君は物心ついて間もなくあの機械に乗ったのだ。つまり君が此世で最初に会った人間、即ち書生とは、実は寒月だったのだ」


 この件については、迷亭先生や寒月博士も証言しています。


「苦沙弥の所の猫なら僕も知って居るが、それが一体どうしたと云うのかね」


「苦沙弥先生に聞くと、一年程前に突然猫が家に来たそうです」


「じゃあ何かい。あの猫は君が過去へ送った猫だって云うのかい」


 つまり、語り手は苦沙弥先生と1年間暮らしていない、だから名前がない、という仮説と、語り手が過去に送られて1年間苦沙弥先生宅で暮らしていた、という仮説は矛盾するわけです。


 タイムパラドックスで色々と過去に送られて訳が分かりません。
 殺人事件発生直前に送られた語り手と、事件の1年前に送られた語り手とが同時に存在しているということでしょうか?
 そういえば、上海で見た寒月や東風が語っていた思い出話と、事件直前の時点に送られた語り手が見聞きする光景を読み比べると、少々違っているような気もします。
 歴史が違ってきているのでしょうか?


 また、語り手の記憶が、実際に体験したものではなく、夏目送籍なる作家が書いた原稿を思い違いしたものだったという仮説は面白いのですが、金田や三毛子を始め、この原稿に描かれているキャラがその通り存在して動いているのですから。
 夏目送籍という人物は一体何者なのでしょうか。
(この辺のもやもや、何となくおかしいのですが、うまく言葉にできません。どう説明したらいいのでしょうか。)


 以上、一番厄介なタイムパラドックスについて述べてみました。
 皆様はこの件についてどう考えますか?
 ご意見ご感想など、お寄せ下さい。

  
 以下、他の小さな疑問を簡単に述べたいと思います。

  
 まず、原典にも登場した泥棒陰士について。
 越智東風と政治運動上の派閥争いをしていたというのはあり得て分かります。
 しかし、それ以上に秘密がありそうです。
 原典で珍野邸に忍んで山芋を盗んで逮捕されたといのも、東風閥との争いが関係しているようです。
 また、泥棒君の相棒嬢は、語り手の猫と深いつながりがありそうなのですが、一体何者?

  
「名無し君は苦沙弥宅に這入った泥棒が寒月に瓜二つであると大いに驚嘆して居る。所が後に泥棒が捕まって刑事に連行された折りには、寒月との相似についてまるで言及して居ない。捕まった泥棒は別人だったのだろうか」

  
 ホームズの指摘です。
 この件については、私も不思議に思っていました。
 本作品でその謎が明かされるのか、と思っていると、結局、よく分からないまま終わってしまいました。
 ホームズは何と説明するつもりだったのでしょうか。
 また、文学史上、この件についてどう解釈されているのでしょうか。

 
 次に、越智東風についての謎です。
 そもそも文学や恋愛について論じていた草食系文科系の東風が、いつの間に上海の薬局店主に収まっていたのでしょうか。
 そして曾呂崎理学士と鈴木藤十郎を殺害し、苦沙弥先生を殺そうとしているのが越智東風ということです。
 越智東風はなぜ曾呂崎理学士を殺害したのでしょうか。
 タイムマシンの発明は人類のためにならんから殺す、というのなら分かりますが、寒月には協力して、モリアチー教授と組んでタイムマシンを利用しようとしているのですから。
 また、鈴木藤十郎殺害の動機も分かりません。
 多々良三平一味を一人づつ殺害していくつもりだったのでしょうか。

  
「苦沙弥先生は不幸な事に秘密を知りすぎて仕舞いました」

  
 一体、何を知ったというのでしょうか。
 語り手猫が1年間苦沙弥先生宅で住んでいたとしたら、知っていたはずです。
 その名無し君が知らなかったというのは、夏目送籍の原稿に書かれていなかったからで、それはやはり名無し君は苦沙弥先生宅で住んではいず、名無し君の記憶が夏目送籍の原稿に書かれていたものだったことを表すのか!?

 
 ついでに、鈴木藤十郎は死ぬ前、語り手猫を見て何かに気付いたようです。
 寒月博士が実験に使っていた猫だと気付いたのでしょうか。
 寒月博士の実験についてかなり詳しく知っている模様。
 一方、語り手猫を籠に閉じ込めた東風は、そのことに気付かぬ様子。
 この違いが、寒月博士との距離を表しているようです。

 
 色々と分からないところがあるようで、探せばまだまだ出て来そうですが、最後に、モリアチー教授について記しておきます。
 さぞ悪いことするのだろうと期待してたら、何とバスカビルの犬の息子を使って苦沙弥先生を暗殺しようとする!
 モリアチー教授に命を狙われるとは、苦沙弥先生も大物になったものです。
 しかし、別に無理してタイムマシンを使わなくても、モリアチー人脈や辮髪の超人人脈で色々できそうなものですが。
 モリアチーもモリアチーですが、猫でない飼い主の方のシャーロック・ホームズもホームズです。
 モリアチー教授はもう上海にはいない、という贋の情報に騙されて倫敦まで帰ってしまったのだから。

   
 あと、三毛子が言った「五千年」の意味、ホームズが思索していた埃及における猫の起源についてなども、意味がありそうでよく分かりません。
 また、語り手猫が催眠術をかけられた時に見た夢は、予知夢のようなものも多かったのですが、子どもを背負った女がお百度を踏む夢は、一体どんな意味があったのでしょうか。
  
「先生、私です」と表から潜めた声が聞こえる。
「何だ、君か」と主人は気安く云いながら鍵を抜いて戸を引き開ける。背後から覗いた吾輩はそこへ立った人物の顔を見る。
  
 物語の最後です。
 果たして、現れた人物は誰だったのでしょうか?
 苦沙弥先生の顔なじみのようだから、侍狗君でも辮髪の超人でもないようです。
 一体、誰なんでしょうか?
 本書を読解すれば分かるようになっているのでしょうか?
 ご意見ご感想、お待ちしております。


バナール主義 作品リスト 『「吾輩は猫である」殺人事件』
  http://www.okuizumi.com/work_list/wagahai.html


OLDIES 三丁目のブログ
■[名作文学]灰猫ホームズの推理競争 「吾輩は猫である」殺人事件
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『吾輩は猫である』殺人事件 ☆☆☆☆
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こころにごはん 「吾輩は猫である」殺人事件(奥泉光)
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『吾輩は猫である』殺人事件/奥泉光[新潮社:新潮文庫]
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 奥泉光『「吾輩は猫である」殺人事件』(新潮文庫) [国内小説]
  http://elwing.blog.so-net.ne.jp/2007-01-31
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『吾輩は猫である』殺人事件 / 奥泉光
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はるほん
『吾輩は猫である』殺人事件
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『吾輩は猫である』殺人事件 : 奥泉光
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残念乍ら美学を含めた人文学はちっとも進歩しない所に特徴がある−−奥泉光『『吾輩は猫である』殺人事件』
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『『吾輩は猫である』殺人事件』
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『吾輩は猫である』殺人事件 奥泉光 新潮社 1996年
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「ミステリの祭典」ミステリの採点&書評サイト
『吾輩は猫である』殺人事件
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