2015年10月28日

原作以上に太宰治的 映画「パンドラの匣」

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 私が勝手に太宰治の最高傑作と思っている『パンドラの匣』が映画化。
 期待して視聴しました。

    
 舞台となる“健康道場”のレトロで牧歌的な描写を堪能。
 原作にある描写やセリフをかなり忠実に拾っていて、原作に忠実な映画化かと思っていたら、途中から微妙にパラレルワールドの世界に。
 原作をそのまま映画にしても面白くない、ということで新解釈を狙ったのでしょうか。
 太宰治作品らしからぬ前向きでほのぼのとした原作なのに、原作以上に太宰治ワールドに近い味付けになっていました。
 ネタバレになりますが、感想や疑問点をメモしておきます。

  
(以下、ネタバレ注意!)


  
 原作では、主人公のひばり(染谷将太)が詩人の友人に書いた手紙文という形式になっています。
 映画では、この友人というのは登場せず、何と退院する同室の友人“つくし”(窪塚洋介)に書いた手紙ということになっています。
 それでこの“つくし”がクセ者の不良詩人で、影の主人公のようになっています。


【第一の疑問・竹さんの結婚相手は誰だったのか】
 私は恋愛などの人間心理に弱いのでよく分からないのですが、この映画のラスト、竹さん(川上未映子)の結婚相手が“つくし”だった、という解釈で間違いないのでしょうか?ここが第一の疑問です。
 結婚相手と待ち合わせていたというのなら、竹さんの表情があまりさえないのが気になります。竹さんはなぜ求婚を承諾したのでしょうか。
 原作では、院長の田島先生(ミッキー・カーチス)が竹さんの親御さんに結婚を申し込んで、竹さんは気が進まないながらも承諾した、ということになっています。
 それはまあ自然な成り行きで納得いきます。
 勤務先の院長が結婚相手というのなら、親も納得するし世間体も自然なので、不本意ながら承諾するというのは分かります。
 しかし、まだ無名の詩人であるつくしに求婚された場合、好きなら喜んで承諾するし、嫌なら断ればいいことです。ましてやひばりの方が好きなのなら、断るはずでしょう。目上の田島院長ならともかく、同格以下のつくしの求婚にいやいや承諾するというのは変だと思います。
……と、人間心理にも映画にも疎い私は混乱するのです。
 バスの中で竹さんの表情がさえないのは、あえて結末をぼかすことで余韻を持たせて考えさせるという“テクニック”なのでしょうか。


【第二の疑問・つくしの書いた手紙】
 原作の「口紅」の章、「白鳥の間」との騒動が描かれています。
 放送で“孔雀”(笠木泉)がお詫びしている時、つくしが万年筆を持って手紙を書き始めます。
 後で竹さんに分かるように落としていきます。
 この手紙、果たして何が書いてあったのでしょうか。
 書いている時につくしが何やらぶつぶつ言っていましたが、聞き取れません。
 また、翌未明にひばりが池で拾った手紙は、その手紙だったのでしょうか。
 ひばりは手紙を読んだのでしょうか。
 字はほとんど消えていたようでしたが、かつては手紙をやりとりした間柄の相手、少しは分からなかったのでしょうか。
 それに、竹さんはなぜ手紙をあんな風に池に放ったのでしょうか。手紙の処分の方法としては中途半端で不自然に思います。

 
 手紙といえば、ひばりが頭を洗っている時、マア坊(仲里依紗)がつくしから来た手紙を持ってきます。
 そのシーンの前のシーンで、竹さんが郵便屋(尾本貴史)から手紙を受け取るシーンが映ります。
 何やら驚いたような表情をしていましたが、それもつくしからの手紙だったのでしょうか。


【第三の疑問・マア坊は知っていたのか】


 冒頭、退院するつくしからはハグされていましたが、その後、肘鉄食わされるマア坊。つくしはマア坊に会いに来てるのではなく、竹さんが目的だったんですね。
 つくしからもひばりからもふられて散々のマア坊ですが、マア坊は竹さんの結婚相手を知っていたのでしょうか?
「竹さんに男の人から熱心な手紙が届いていた」
と言ってました。そこまで知ってたのなら、相手のことも知っていた可能性は高い。
 だから布団部屋でやけくそになっていた。
……と私は想像しますが、何せ自信がなく、不安です。
 誰かと語り合えたら自信を持てるのですが、一人ぼっちで語り合う相手もいなく、孤独で不安です。




 あと、気付いたこと。
 原作ではつくしが入院した病室「桜の間」は4人部屋でしたが、映画では6人部屋。つくしの退院記念写真に、ちゃんと6人写っています。
(追加の2人はダットサン(赤松英和)と冷奴(渡辺英基)?)

  
 映画では竹さんは大阪の“つるしま健康道場”から赴任してきたことになっています。
 落下傘管理職とは嫌ですねえ。やはり管理職は内部昇格の方がいいと思います。

  
 ひばりが池で手紙を拾う時、庭で草を刈っていた方々は何をしていたのでしょうか。あんな時間に草刈りをしているのでしょうか。
 私は不気味さを表すために幽霊を映したのかと思いました。

 
 神出鬼没に現れる郵便配達夫(尾本貴史)がいい。ユーモラスな演出かと思うのですが、マイナス思考の私としては、何か“死神”を連想して怖いという面も。

  
 原作では文弱柔弱の天然キャラだった木下清七殿(かっぽれ)(杉山彦々)さんですが、映画ではヒゲなんか生やして血気盛んな体育会系。
 また、原作では威厳のある大人物風だった大月松右衛門殿(越後獅子)(小田豊)や田島院長(清盛)が、少々スケールが小さくなっていたのが残念。
 この二人は、ひばりが目標とし、超えるべき大人として重要な人物だと思うのです。昭和の前半までは確かにそういった大人は存在していました。
 しかし、平成時代に入り、そのような大人というのは描かれにくくなったのでしょうか。
 ミッキー・カーチスさんの演技に文句言ってるのではありません。この場長はこれはこれで飄々とした好々爺で、目指すべき老人・ご隠居さんとしてはいいのです。
 しかし原作の“清盛”は、患者さんからも恐れ敬われて、学会からも注目されている現役バリバリ世代です。
 しかも婚活もバリバリ現役で、ひばりが憧れている看護師を奪って結婚してしまいます。
 ひばりにとっては雲の上の存在であり、オディプス・コンプレックスとして立ちはだかる存在、クロノスにとってのウーラノスであり、ゼウスにとってのクロノス。戦って超えていかねばならない存在です。

  
 いなくなった“怖い大人”の代わりに登場したのが、“怖い友人”。
 原作では、同世代の友人と協力して旧世代の越後獅子や清盛を目標にし、越えていくことがテーマとなっていましたが、平成時代に作られたこの映画ではそのような大人は存在せず、同世代の友人との駆け引きが重要となってきます。
“つくし”は、太宰治作品によく登場する不良作家・不良詩人のタイプです。
 私はこういうタイプが嫌いなので太宰作品が嫌いで、こういうタイプが登場しない原作が大好きだったのですが、まさか映画に出てくるとは。
 かっぽれは死んでしまうし不良詩人は出てくるし、この映画は原作以上に“太宰治的”です。
 しかし、平成時代の現実に目を向けると、友人とのライバル関係は良くあることで(というか昔からもそうですが)、こんな風にストーリーを組み替えてしまった映画化もリアリティあるし、面白い試みだと思います。

 
 ということで、原作を崇拝する私としては、このストーリー変更が残念でしたが、意義は認めますし、何より原作を目に見えるように映像化してくれたのは嬉しいことです。
 私としては、原作と比較しながら楽しむことをお勧めします。
 そして、原作との違いをどう思われたか、同好の士からのコメントがあれば嬉しく思います。


■[速読読書]パンドラの匣 太宰治の最高傑作
  http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20150724/p1


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パンドラの匣 : 作品を観た感想トラックバック
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パンドラの匣@eigacomさんから
  http://eiga.com/l/ZaCr
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■太宰治の小説と芥川龍之介の小説と、どちらが好きですか?
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