2017年04月13日

シムノン『男の首』ネタバレ検討会

20170413162402.jpg
   ★男の首 (1977年) (旺文社文庫)

 
 シムノンのメグレシリーズ。
 ジョゼフ・ウルタンの死刑判決に疑問を持ったメグレ警部はウルタンを脱獄させ、泳がせる。
 果たして事件の真相は……?

 
  
(以下、ネタバレ注意!)

   
 そもそもウルタンが最初から事情を話していれば、事件は早期に解決していたのだった。
 なぜウルタンは事情を話さなかったのか。
 メグレは、真犯人ラデックから
「話さなければ逃がしてやる」
と説得された、と説明していました。
 しかしそんな空約束、信用できるものでもない。
 また、一時は信用していても、死刑執行の前日にでも直前にでも
「待ってください!話します!」
と話せば一気に形成は逆転するはずです。
 だからラデックも死刑が執行されるまでは不安で気が気でなくなるはずだと思うのですが。 
 ラデックは人の心理を読むのがうまいということなので、催眠やマインドコントロールのようなものを使ったということなのでしょうか。

  
 メグレがラデックと初遭遇したバー「クーポール」のシーンで、ウルタンがやって来てラデックに会おうとします。
 バーの店員に一度追い払われてからは延々外で待っていたのですが、本気で会おうと思うなら、隙を見て入り込めないのでしょうか。
 ここでラデックとウルタンのつながりが明らかになれば、話はもっと早くけりがついたはずです。
 どうもこのウルタン、説明力もないし自分を守るために適切な行動をすることもできない。他人の犠牲にされやすいタイプのようです。

   
 それでこのバー「クーポール」のシーンで、メグレはウイリアム・クロスビー夫妻に挨拶されます。
 今回の殺人事件の結果、遺産が転がり込んで得をした夫婦だと後に分かります。
 このシーンでは説明もなくメグレの知人のように描かれていています。
 本筋に関係のない些細なことなのですが、この記述法が気になりました。
 クロスビー夫妻とメグレの親密度はどうなんでしょうか。
 クロスビー夫妻はパリの社交界の著名人のようだから、普通に知り合っていたのでしょうか。
 それとも、殺人事件の捜査の際に知り合ったのでしょうか。

    
 真犯人の医学生ジャン・ラデックは強烈なキャラです。
 雉も鳴かずば撃たれまいといいますが、ラデックもメグレに余計な挑発なんかしなければ、ラデックが言及しているデスモンド・テーラー事件のように迷宮入りしていたでしょう。

 
UNSOLVED MURDER CASE
  http://serial.jakou.com/unsolved.htm

 
 ラデックが心身ともに壊れていって自滅したようなもんです。
 それでも、最後のラデックの小細工をメグレが阻止して逮捕に至ったのは、やはりメグレもひとかどの人物ということでしょう。

 
 本作品には、ムルスという鑑識課に所属する筆跡鑑定の専門家が登場します。
 真犯人の書いた手紙は左手で書かれており、鑑定は難しいと言いながらも、書き手はインテリで数か国語をマスターしているとか、意欲的であると同時に意志の弱いところがあるとか、重い病気にかかっていることを自分でも知っているとか、色々なことをリーディングします。
 何で筆跡でここまで分かるのですか?メンタリズムか超能力かサイコメトリーか。ある意味名探偵よりすごい。
 そういえば、フランスは筆跡鑑定の本場だと以前読んだことあります。

 
筆跡鑑定
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AD%86%E8%B7%A1%E9%91%91%E5%AE%9A

 
 犯人を泳がして探偵が尾行するというパターンは、同じフランス・ミステリーの『ルコック探偵』でもありました。フランス・ミステリーのパターンなんでしょうか。

 
OLDIES 三丁目のブログ
■[名作文学]ルコック探偵尾行命令(ネタばれ注意!)
  http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20120106/p1

    
 メグレは当初、「警部」と訳されていたようですが、いつ頃からか「警視」と訳されるようになりました。私が小学校の図書館で読んだ版は「警部」でした。

 
   ★メグレ警部とギャング

  
 ミステリーマニアの友人は「ホンマは“警視”と訳すんのが正しいんや」と言ってましたが、私は言葉の語感は“警部”がいいと思ってました。
 今回私が読んだ旺文社文庫版(木村庄三郎訳)は「警部」表記です。
 そういえばルパン三世 2nd seriesの
  第130話 ルパン対奇人二面相
では、マグレ警部というキャラが登場します。

   
 最後に、旺文社文庫版の解説(松村喜雄)から引用します。  
「まず人間を描き、社会構成の中からはみだした悲劇(むろん犯罪をテーマにすることになるが)を描く、極めて新しい、心理推理小説ともいうべき型を創始した」

 
「シムノンはフランス心理小説の伝統につながる正統派なのだ」

 
「英米でシムノンを認めることになったのは、第二次世界大戦後であるから、日本のほうがはるかに早かったわけで、日本の推理小説の歴史の上に大きな足跡を残したといえる」

 
「もし読者のなかで、「男の首」を読んで、首をかしげる方がいたとしたら、その方は、まさに本格探偵小説の愛好家だといってもいいと思う。また読後、首をかしげる方があるはずだと思う。シムノンは探偵小説の本質に迫る努力よりも、文学に迫る情熱を燃やしつづけた作家であるといえるであろうから」


 
日本語になったメグレ http://www.k5.dion.ne.jp/~miauler3/

 
  [wikipedia:ジョルジュ・シムノン]  
   [wikipedia:ジュール・メグレ] 
    [wikipedia:男の首]

 
一冊たちブログ 「男の首 黄色い犬」
  http://blog.goo.ne.jp/issatsu/e/5df356ef6affe596b1d2d8f8ce09b84a
鴨がネギしょってやってきた ジョルジュ・シムノン 男の首
  http://blog.livedoor.jp/negisikamo/archives/51167170.html
海外ミステリ・レビュー
「男の首 黄色い犬」ジョルジュ・シムノン
  http://kikyo19.hatenablog.com/entry/2015/06/27/231511
翻訳ミステリー大賞シンジケート
第9回『男の首』(執筆者・瀬名秀明)
  http://d.hatena.ne.jp/honyakumystery/20150715/1436915257

 
ブクログ
 http://booklog.jp/item/1/B000J8TZTK (1977年) (旺文社文庫)
 http://booklog.jp/item/1/4488139019 (創元推理文庫 139-1)
 http://booklog.jp/item/1/B00AQRYP3A [Kindle]
読書メーター
 https://bookmeter.com/books/1767463 旺文社
 https://bookmeter.com/books/106805 創元
 https://bookmeter.com/books/142991 角川
本が好き!
 http://www.honzuki.jp/book/246825/ 旺文社
 http://www.honzuki.jp/book/159088/ 創元

  
 ☆SF Kidの本棚……睡眠開発BOOKS!
   http://www.g-tools.net/17/26612/index.html
 
   ★ミ ★ミ ★ミ ★ミ ★ミ ★ミ ★ミ

 ☆SFを考え、過去を考え、未来を考える
   20世紀少年少女SFクラブ
   SF KidなWeblog
   少年少女・ネタバレ談話室
 ☆睡眠を開発して成功しよう!
   睡眠開発計画weblog
 ☆相互紹介
   OLDIES 三丁目のブログ
   荒馬紹介のツイッター保管庫
   万年週末占い研究青年の覚え書き

タグ:シムノン
posted by SF Kid at 20:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 探偵小説
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/179421770

この記事へのトラックバック