2018年08月31日

シャム兄弟のひみつ ネタバレ検討会

   ★シャム兄弟のひみつ・双頭の犬と七ひきのネコの冒険

 

 
 鶴書房のミステリ・ベストセラーズ『シャム兄弟のひみつ』亀山龍樹訳。
 亀山さんの訳は生き生きしています。
 例えば、冒頭のクイーン父子の会話

 
「エラリー、とうとう道にまようてしもうたじゃないか。日もくれかけておるのに、いうことをきかぬがんこものめが。じっさい、おまえのおふくろに、そっくりだわい。」

 
「なんとか、いうたらどうだ、エラリー。」

  
 洋画の吹き替えの影響があるように思います。
 以下、ネタバレ検討です。

 
【ミステリ・ベストセラーズ版で分かりにくかった点】
【ゼービア博士の弟・マークの行動について】
 なぜ犯人を知っていたのにトランプで示唆するにとどめてすぐに言わなかったのか。
 自分が犯人だと指摘されても真犯人を言わずに逃げ出したのか。

 
 その辺がよく分からず、これは縮約のせいだからか、完訳版なら納得できるのか、と思って完訳版も読むことにしました。

 


 
 角川文庫の新訳版は、ページ数当たりの文字数も多くてページ数も多く結構な分量です。
 ミステリベストセラーズ版はこの膨大な作品の骨子を流れに沿って的確に訳されていると思います。
 ただ、私が疑問に思ったように、マークやゼービア夫人の心理が少し分かりづらかったように思います。
 マークは真犯人の犯行現場を見たわけではなく、犯人はシャム兄弟だと思い込んでいて、罪をゼービア夫人に押し付けようとしていたのです。
 その後、犯人はゼービア夫人ではないかと疑うようになったこと。
 その辺りが亀山版では分かりにくかった。
 また、犯人だと指摘されて無実なのに抗弁せずに逃げ出したのは、人間の異常心理のようです。人間いつも冷静に行動できるわけではありません。

 
【ミステリ・ベストセラーズ版で分かりにくかった点】
【ゼービア夫人の殺人動機】
 また、ゼービア夫人の殺人動機は、夫とカロー夫人の不倫を疑ってのことのようです。
 その辺、亀山版では子ども向けということもあり、あまり詳しく触れられていなかったので分かりにくいと思いました。

 
【ミステリ・ベストセラーズ版で省かれたシーン】
 最後に地下室でエラリーが真相を暴くのですが、完訳版ではその前にもう一回、シャム兄弟を犯人だと指摘するシーンがあります。
 このシーンが亀山版では省かれていました。
 亀山版ではシャム兄弟はタイトルに出ている割には余り話に絡んで来ないと思っていたのですが、何と一時は犯人扱いされていた!
 それでこそタイトルに合った内容です。
 しかし、このシーンはシャム兄弟やカロー夫人にとって気の毒なシーンでもあるし、エラリーの大失敗推理シーンなので、ジュブナイル向き翻訳では無くても結構かと思います。

 
【なぜゼービア夫人から聴取しない】
 本作品で面白いのは、中盤で真犯人があっさりと自白することです。
 しかしその後エラリーが右利き・左利きの理屈によって真犯人の自白を否定するのです。
「犯人をかばっている」
と善意に解釈します。
 それならなぜその後ゼービア夫人から聴取しないのでしょうか。
 クローズドサークルの中で真犯人がいて、次に誰か犠牲者が出るかもしれないのに、その真犯人をかばっていると思われる人物から何も聞かないのはおかしいと思います。
 実際、第二の殺人も起こったし。マークの死後もゼービア夫人から聴取しないのは絶対にあり得ないと思います。

 
【そんなに利き腕は重要か】
 それに右利き左利きといっても、トランプを破って捨てることなど、別にどちらの手で行ってもいいのではないでしょうか。
 そら複雑な行為なら利き腕でしないとできませんが、簡単なことくらいどちらの手でもできますで。
 しかも今回はダイイングメッセージという非常事態なのだから、利き腕でない方を使ってもおかしくないように思います。

  
【マーク殺しの件について】
 マークが殺される件については、かなり危ない橋のように思えます。
 父クイーン警視をクロロホルムで眠らせるなんて薄氷の行為です。
 余程慣れた犯罪者でないとできないと思います。
 ゼービア夫人のようなヒステリー持ちの上流階級夫人にはできそうに思えません。
 ドアの前で待っていてもうまく警視が首を出す可能性はありません。
 現実的に考えると、クイーン父子や他の誰かに目撃される可能性の方が高いでしょう。
 ここは現実的にはあり得ない、ミステリー小説ならではの描写と思っておきましょう。
 なお、亀山版ではリチャード・クイーン氏の役職を“警部”とし、角川版では“警視”となっています。
 ジュブナイル版では“警部”の方が耳慣れている感じです。
 小学校の図書室に入っていた推理シリーズではフレンチもメグレも“警部”と訳されていたように思います。

 
【見張りの方法の失敗】
 さらに言えば、クイーン父子は二人で見張るべきでした。
 同じ部屋で交代で眠れば、危険性も減るのです。
 欧米人は親子でも別室で一人づつ寝るという習慣があるのでしょうか。
 日本人ならば家族が同じ部屋で寝るのに違和感を感じないのですが。

 

 
 そんなに年を取っていないのに早々に引退して山の中で悠々自適の研究生活を送っているゼービア博士。理想的な生活です。
 玄関にはレンブラントの解剖学に関する絵が飾られているようです。

 
  [wikipedia:テュルプ博士の解剖学講義]

 
dezire_photo & art
 レンブラントの命運を託した2つの『解剖学講義』
  https://desireart.exblog.jp/23083394/

 
 以上、ジュブナイル版と完訳版を比較してきました。
 亀山訳版は、一部心理描写が不十分な点がありましたが、膨大な原作を的確に短く縮約していたと思います。
 なお、亀山版の表紙は池田龍雄、挿絵は牧朗となっています。
 表紙画像はネット上で見ることができます。
 牧朗さんの挿絵はなかなか味があります。
 例えば、このような画風です。
  http://f.hatena.ne.jp/nazegaku/20180901122424
  http://f.hatena.ne.jp/nazegaku/20180901122446
  http://f.hatena.ne.jp/nazegaku/20180901122515
  http://f.hatena.ne.jp/nazegaku/20180901122547

 
 なお、このミステリ・ベストセラーズ版は、後半に

 
双頭の犬と七ひきのネコの冒険
 はじめの話・双頭の犬の冒険
 つぎの話・七ひきのネコの冒険

 
 という話が収録されています。
 エラリー・クイーンの短編集から犬と猫に関する話を選んだようです。
 何で原作では独立した短編2つをわざわざ一つにくくるのか、面白い構成です。
 ミステリ・ベストセラーズは2つの作品を収録するのが基本のようだから、あえて2作品を1つにまとめたのでしょう。

 
 また、角川文庫から出た新訳版は、エラリー・クイーン研究家の飯城勇三氏の解説が付されています。
 この解説が充実しています。これでこそ紙の本を購入する付加価値というものです。
 私は以前、クリスティー文庫『そして誰もいなくなった』に解説がないことについて不満を述べました。

   
OLDIES 三丁目のブログ
■[名作文学]クリスティー文庫に解説がほしい 文庫本と解説
  http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20180111/p1

 
 翻訳権を独占して沢山翻訳を出しても、解説を載せないんじゃね。
 早川書房は「翻訳権独占」の地位にあぐらをかいているのではないでしょうか。

 


 
  [wikipedia:シャム双生児の秘密]
  [wikipedia:亀山龍樹]
  [wikipedia:飯城勇三]

 
牧朗オフィシャル・ウエブサイト
  http://edit.boy.jp/makirow/

 
ブクログ
  https://booklog.jp/item/1/B000JBT53S
  https://booklog.jp/item/1/4041014557
  https://booklog.jp/item/1/4150701172

 
ミステリー・推理小説データベース シャム双子の謎
  https://www.aga-search.com/detective/ellery_queen/7.shtml
odd_hatchの読書ノート
 エラリー・クイーン「シャム双生児の謎」(創元推理文庫)
  http://d.hatena.ne.jp/odd_hatch/20161111/1478821302
エラリイ・クイーンの書評
 シャム双生児の謎(訳者:青田勝)
  http://itamomo.la.coocan.jp/siam.htm
ミステリの祭典
 シャム双生児の秘密
  http://saiten.dip.jp/mystery/main/list_review/1162

 
  [wikipedia:結合双生児]

 
エジプト十字架の秘密・十四のピストルのなぞ (少年少女世界推理文学全集) ネタバレ感想
  http://sfclub.sblo.jp/article/181417176.html
ヴェルヌ『アフリカ横断飛行』(気球に乗って五週間)
  http://sfkid.seesaa.net/article/458532017.html
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タグ:クイーン
posted by SF Kid at 20:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 探偵小説
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