2014年02月07日

贋作『坊っちゃん』殺人事件 の暗澹

4043829051贋作『坊っちゃん』殺人事件 (角川文庫)
柳 広司
角川書店(角川グループパブリッシング) 2010-11-25

by G-Tools



(あらすじ:ネタバレ注意!)
 坊っちゃんと山嵐が赤シャツと野だいこに天誅を加えて東京に戻ってから3年後。
 人混みの喧騒の中で坊っちゃんは山嵐と再会する。
 彼らが赤シャツらを殴って松山を出た次の日、赤シャツはターナー島で首吊り自殺をしていたという。
 不審に思った彼らは松山に飛び、調査を開始するが。。。

  
(以下、ネタバレ注意!)
     ★     
 夏目漱石『坊っちゃん』に描かれなかった真相!
 原作の設定をそのまま使い、その裏側に潜んでいた真実を暴き出します。
 うまい!名作です。
……とこの作品を絶賛した上で、それでも私はこの作品を好きにはなれません。
「評価するーしない」「好きー嫌い」という2つの軸で表すと、私は
「評価する 嫌い」の部分に入ります。

    
……というのも、本作品では、折角見事に完結した原作をほじくり出して、登場人物に新たな解釈を付け加えています。
 あの人は実はあんな人物だった…とゴシップを暴かれているようで、知りたくなかったことを知ってしまった!という失望感です。

     
 それにこの真相及び結末、救いがないですね。
 特にこの真犯人の方については私個人としても他人とは思えず我がことのように思い入れがあっただけに……。
 ということで、以下、ネタバレ全開で思いの丈をぶちまけたいと思います。
真犯人の実名も事の真相もバレバレで書いていきます。

    
(以下、本格的にネタバレとなっています。注意!)

   
4022576707贋作『坊っちゃん』殺人事件
柳 広司
朝日新聞社 2001-09

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 実は坊ちゃん赴任時の中学校では、自由民権運動派と社会主義派との間で激しい勢力争いが繰り広げられていたのだった!
 前者の代表が山嵐であり、後者の代表が何と古賀先生(うらなり君)で、赤シャツや野だいこもうらなり君の影響で社会主義に傾いていた、という驚愕の真相!
 しかし、原作をどう読んでみても山嵐とうらなり君が思想的対立をしているように見えないのですが。
 まあそれは、小説を面白くするために少しの設定違いは目をつぶりましょう。
 ファーストガンダムがTV版と映画版で設定が一部変更されたようなもんです。

      
 しかし、赤シャツが裏切りそうになったのでうらなり君が口封じをした、という真実!
 私自身がうらなり君とそっくりだと自覚して自分のようだと思っていただけに、この発覚は残念。何で分かったんだ!そっとしておいてほしかった……って、違うでしょ!
 この設定は残念です。私が我がことのように思っていたうらなり君を冒涜されたようで。

     
 そしてこの赤シャツ殺害は、坊ちゃんと山嵐が天誅を加える直前の宿屋で行われたということになっていますが、詳しくは述べられていません。
 どうやって宿屋の人達にも知られないように実行されたのでしょうか。宿屋の人達はうらなり一派の仲間だったのでしょうか?
 さらに、殺害発覚時間を遅らせるため、赤シャツの影武者を仕立てて宿屋から出したということですが、いくら野だいこが酔っぱらって抜けていたとしても、赤シャツのすり替わりに気付かないはずないでしょう。
 原作では山嵐と赤シャツが言葉を交わして談判するシーンもありますし。


 うらなり君が坊っちゃんを味方にしたかったが山嵐に先に取られてしまった、という告白もあります。
 しかし原作では、温泉の帰りに坊っちゃんがうらなり君と出会って色々と話しかけたがうらなり君が乗り気でなかった、という記述もあります。


……まあそれは、小説を面白くするために少しの設定違いは目をつぶりましょう。
 ファーストガンダムがTV版と映画版で設定が一部変更されたようなもんです。

      
 それにしても最後、混乱のうちに端折られたような感じになって、どうなったのかよく分かりません。
 果たして山嵐は来たのでしょうか?山嵐配下の自由民権運動派と官憲が協力してうらなり君を逮捕に来たということなんでしょうか?もしそうだとしたら、救いようのない結末ですね。

     
 集英社文庫版の解説で三浦雅士さんは「坊っちゃんの非政治性」について述べ、政治問題に関わるようなタイプではない、と述べられています。
 私はそれは、山嵐にもうらなり君にも赤シャツにも野だいこにも当てはまるように思うのです。  
 そもそも、なぜ山嵐は、赤シャツの自殺調査に坊っちゃんを誘ったのでしょうか?
 坊っちゃんなら、
「赤シャツが首をくくろうが野だいこが水死しようが俺には関係ないよ」
と言いそうです。

   
 しかし私が一番嫌なのは、この作品の真相及び結末の救いようのなさです。
 政府の言論弾圧が厳しくなり、それに反対する人々も、自由民権主義者と社会主義者の間で勢力争い・足の引っ張り合いをしているという。
 この作品の舞台になっている1908年前後の歴史的事実なのかもしれません。
 平岡が所属する新聞社も言論弾圧で1か月の発行停止処分を食らい、
「廃刊か、さもなくば政府の御用新聞か」
と嘆いています。
 中学校にも政府の間諜が紛れ込み、うらなり君は最後、官憲によって逮捕され、処刑されることが示唆されています。

    
 この展開を読んで、私は、他人事のようにはとても思えず、我がことのように寒々とした嫌な気分になりました。
 言論弾圧をはるか昔の出来事だ、今の日本ではあり得ない、と他人事でいられる人は、何とも思わないで
「面白かった」
と他人事のように絶賛できるのでしょう。

     
 しかし私は、今後の日本、今後の自分が直面する悲劇を予言されたようで、私が弾圧されたようで、私が逮捕されたようで、私が処刑されたようで、単純に楽しむわけにはいきません。

 
 断っておきますが、私は現実の世界でリアルに政治活動をしているわけではありません。
 たまに匿名で、ブログやツイッターを使って、右傾化する社会を批判しているだけであります。
 影響力は全くなく、いくら書いても何の反応もありません。
 そんな私でも、いずれは言論弾圧の対象となる時代がもうすぐそこまで来ています。

 

    
 そしてこの物語でもう一つ残念なことは、言論弾圧で追い込まれたうらなり君が、裏切って政府に密告しようとしていた赤シャツを口封じするという展開です。しかも天皇を暗殺する計画まで立てています。
 あのうらなり君がこんな冷酷で残忍な犯罪者・テロリストだったなんて!
 幾ら何でもひどすぎませんか?
 私は柳広司さんの作品を読んだのは本書が最初で、どのような思想を持っている方かは知りませんが、本書において、言論弾圧に抵抗する人々も結局は追い込まれると他人の命など平気で殺すし悪いこともする、というイメージが残ってしまったのは残念に思います。

 

     
 本書で描かれた時代から100年以上を経た2014年現在の日本。
 2014年2月9日に投開票が行われる東京都知事選において、優勢な政府が推す候補に、脱原発の革新系と非革新リベラル系の候補が挑むという構図です。
 脱原発陣営は、革新系と非革新系で一本化できずに、一部の支持者の間ではお互いを激しく批判し合っています。
 まさに、本作品で描かれた、自由民権運動と社会主義運動の対立構図の再現を思わせます。

 
 そして、公共放送では、原発批判はタブーとなり、公共放送の会長や経営委員は問題発言を繰り返しています。(彼らや彼らを強引に任命した首相の方がうらなり君より遥かに悪人だと思うのですが。そういう連中が懲らしめられる勧善懲悪の物語が読みたいのです。)

 
 言論統制・言論弾圧は既に始まっているのです。
 御用マスゴミのイメージ操作に惑わされ、言論弾圧に反対する連中も口ではきれいごと言ってるけどどうせ裏で悪いことしてるんだろう、と多くの一般の人が思い始めると、もう民主主義は終わりです。
 本書で描かれた日露戦争から戦前の時代に逆戻りです。

     
……と、このようなことを考えていると、折角の名作である本作品も率直には楽しめず、暗澹たる思いに襲われるのであります。

     
 でも何だかんだ言っても、創作者が一番偉い。後からケチつけるのは誰でもできる。
 失礼なこと書きましたが、本作品が名作であることには変わりなく、作者の柳広司さんも尊敬に値します。
 他の作品も読ませて頂きます。

 
4087478033贋作『坊っちゃん』殺人事件 (集英社文庫)
柳 広司
集英社 2005-03-17

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ミステリ読書録
 柳広司/「贋作『坊ちゃん』殺人事件」/朝日新聞社刊
  http://blogs.yahoo.co.jp/belarbre_820/46107908.html 
■■読書のススメ■■ 
 柳広司「贋作『坊ちゃん』殺人事件」〜坊ちゃん、もうひとつの物語
  http://blogs.yahoo.co.jp/mepochzo/53667781.html

読書日記〜防忘録〜
 贋作『坊ちゃん』殺人事件 柳広司著 朝日新聞社 2001年
  http://blogs.yahoo.co.jp/tt_tmk_tnk/48624568.html
たいりょうのちょっと一息
『贋作『坊ちゃん』殺人事件』(☆4.2) 著者:柳広司
  http://blogs.yahoo.co.jp/tai_y1976/45500537.html
読書とジャンプ
「贋作『坊っちゃん』殺人事件」 柳広司 「ミステリはお好き?(6794)」
  http://dokujan.blog36.fc2.com/blog-entry-1448.html
yottekiのblog
「贋作『坊ちゃん』殺人事件」を読んだ。
  http://blog.livedoor.jp/yotteki/archives/30194717.html
ば○こう○ちの納得いかないコーナー
「贋作『坊っちゃん』殺人事件」
  http://blog.goo.ne.jp/giants-55/e/b181439ccca6f0899a74db77989c89db  
八方美人な書評『贋作『坊っちゃん』殺人事件』
  http://www2u.biglobe.ne.jp/~BIJIN-8/fsyohyo/b_gansaku.html
  
1577  2013.02.18  『贋作『坊ちゃん』殺人事件』  柳広司   朝日新聞社 
 http://www.geocities.jp/pluto_naoko/2013-2.18.html
【小説】贋作『坊ちゃん』殺人事件 / 柳 広司 - 仮想図書館管理室AOI
  http://www.sdls.jp/~barista/aoi/contents/0318.html
   
■[名作文学]【百年読書会】『坊っちゃん』その後おれはうらなりになった
  http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20090709/p1


柳広司
  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9F%B3%E5%BA%83%E5%8F%B8
贋作『坊っちゃん』殺人事件
  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B4%8B%E4%BD%9C%E3%80%8E%E5%9D%8A%E3%81%A3%E3%81%A1%E3%82%83%E3%82%93%E3%80%8F%E6%AE%BA%E4%BA%BA%E4%BA%8B%E4%BB%B6


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